法人という概念がある。法人とは、自然人(人間)を除いた、法律によって「人」とみなされるもののことである。「人」であるから、それは国家によって権利を付与された、主体的に行為することの出来るものである。会社は人間の形こそしてはいないものの、そこには「人」として活動するために必要ないくつかの根幹機能というものが存在しなければならないはずである。そのうちの一つが、脳、すなわち司令塔としての機能である。そしてそれをなすのは、法人の中で活動する人間である。一人か多数かはともかくとして、あるいはその機能の一部が分化してるか未分化かはともかくとして、全体を統合する一つの司令塔としての機関は会社において不可欠である。人間の織りなす会社という組織ないし構成体は、人らしきものなのである。
 ところである人を評価するとき、それは多くの場合その人が優れた成果を残したか否かによってなされることであろう。それと同時に我々は、その優れた成果がいかなる信念やビジョンのもとになされたかにも目を向けていることに気づくはずである。例えば巨万の富が悪行ないし違法によってなされたものであれば我々はそれを賞賛しないし、また宝くじで3億円を当てた者を優れた人間の一人に数えようとする者はいない。大切なのはその成果がいかなるプロセスによってなされたかであり、そしてそのプロセスはいかなる考えや思いや精神的な働きによってなされたかである。人間の価値はその人の成果とともに内的な要素によって決まる。もっと言えば、樽の中に住み、何ら「成果物」をもたらすことのなかったディオゲネスの名が二千四百年余の歴史の風雪に耐え、現在においても目を向けられるべき対象とみなされていることからも分かるように、人間の本質的な価値は内的な要素によってこそ決まるのである。
 経営者の役割とは何であるか。大きく分けて次の三つが挙げられよう。すなわち、
一、我々が何であるかを見出すこと
二、我々は社会にどのような明確な価値をもたらすかを定めること
三、どのようにしてその価値を社会にもたらすかを取り決めること
の三つである。そして昨今の経営者は、まともにやれているように思われる者であっても、せいぜいのところ三しか満足になされていないように思われる。一と二に思いを巡らしている者はごく僅かしかいない。彼らはそれをなすことを知らないか、もしくはそのようなものは必要ではないと考えているのである。そうではないと反論する多くの経営者は、自らの本棚を眺めてみればよい。また、一冊の経営学の本を読むときに、何処を飛ばして何処をじっくりと読むかを思い出してみればよい。さらにまた、自社のビジョンや理念に他社との明確な差異が多少なりとも存在するかどうかを思索してみればよい。このようなハウツーの経営学は、実際のところ企業としての会社が如何にすれば成果を出すことが出来るかを全くのところ反映してはいない。建て付けばかりを整えて顧客に何かを提示したとて、顧客は見向きもしないのである。分かりやすく言えば、寄せ集めた様々な機能を一つのスマートフォンに詰め込み、詳しく説明がなされたパンフレットとともに行儀よく店頭に飾ったとしても、それが明示的な何かを訴えてこないことには、消費者はそれを手に取ろうとすらしないのである。企業の生産した価値は、全くのところその企業を反映したものである。すなわち、ある企業の生み出したあるモノはその企業の精神の発露であり、顧客もそれを意識的ではないにせよ少なくとも感覚的には理解しているのである。アップルの製品は、アップルの製品だからこそ売れるのである。フェラーリを買う者は、フェラーリという世界観の中に自らを埋没させるためにその価値を買うのである。メイドインジャパンが売れていたのは、真面目で改良好きの日本企業の不良品を出さないことを飽くまでも追求する思想とそれによる実態が受け入れられていたからである。彼らが買っているのは便利さという曖昧な何かよりも、如何にその価値が自らを、ないし自らの生活を変えるか、あるいはこれからも守ってくれるかという現実そのものであり、それに向けた期待感なのである。すでに世界のデファクトスタンダードとなったガートナーのマジック・クアドラントは、実行力を縦軸に置き、横軸にはまさにビジョンの先見性を置いている。それはビジョンなくしてその製品やサービスの価値は判断することが出来ないことを示しているのである。
 よいものは売れるというのはその通りであろう。しかしそれは、技術的に「よいもの」とか機能的に「よいもの」ではなく、ある種の顧客にとって「よいもの」であると感受されるものでなければならない。それは何をもって示すかとか如何にして示すかよりも、我々として何を示すか、どのような価値を示すかから始めなけれはならないのである。我々は何であるかという人間臭さこそ、その企業を特徴づけ、そこから発せられる価値を他社と区別させ、顧客に何かを訴えるのである。
(文責:遠藤司)

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